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札幌地方裁判所 平成9年(ワ)2545号 判決 1999年6月10日

原告・被参加人(以下「原告」という。)

有限会社トクダ

右代表者代表取締役

徳田源藏

原告・被参加人(以下「原告」という。)

林文治

右二名訴訟代理人弁護士

三木正俊

八木宏樹

被告・被参加人(以下「被告」という。)

千代田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

福田耕治

右訴訟代理人弁護士

尾﨑英雄

参加人

小野寺治

右訴訟代理人弁護士

馬杉栄一

奥田真与

主文

一  原告有限会社トクダの請求を棄却する。

二  原告林文治の請求を棄却する。

三  参加人の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用のうち、参加によって生じたものは参加人の、その余は原告らの各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告有限会社トクダ(以下「原告会社」という。)に対し、七五六〇万円及びこれに対する平成九年一二月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告林文治(以下「原告林」という。)に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  参加人の原告らに対する請求を棄却する。

4  訴訟費用は被告及び参加人の負担とする。

5  1、2及び4項についての仮執行宣言

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  参加人の被告に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告ら及び参加人の負担とする。

三  参加人

1  参加人と原告らとの間において、別紙1記載の請求権が、参加人に帰属することを確認する。

2  被告は、参加人に対し、五九五〇万円及びこれに対する平成九年八月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  参加によって生じた訴訟費用は、原告ら及び被告の負担とする。

4  2項についての仮執行宣言

第二  当事者の主張

一  原告らの請求について

1  請求原因

(一) 原告会社は、平成九年三月九日、被告との間で、札幌市東区東苗穂八条<番地略>所在の建物内において原告会社が経営する「パチンコサンパレス」の店舗(以下「本件店舗」又は「サンパレス」という。)について、次の店舗総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

被保険者 有限会社トクダ

保険の目的

本件店舗内にある設備・什器等一式及び商品・製品等一式

保険金額

設備・什器等一式について九五〇〇万円

商品・製品等一式について三〇〇万円

保険料 月額二万九九〇〇円

保険期間

平成九年三月九日から平成一〇年三月九日午後四時まで

保険金の支払

火災事故によって保険の目的に生じた損害に対し保険金を支払う

(二) 平成九年七月九日午後一一時二〇分ころ、本件店舗において火災が発生し、本件店舗一階の動産がほぼ全焼したほか、内部煙損、水漏れ汚損が生じるなどした(以下「本件火災」という。)。

(三) 原告会社は、本件火災により、本件保険契約の目的が焼損し、少なくとも次の損害を受けた。

設備・什器等一式

一億九〇八九万二一一〇円

商品・製品等一式 六〇万円

(四) したがって、原告会社は、被告に対して、本件保険契約に基づいて約定の保険金額の範囲内で九五六〇万円の保険金を請求できる権利を取得した。

(五) 原告林は、平成九年八月二八日、原告会社から、右保険金請求権の一部を二〇〇〇万円の限度で譲り受けた。

(六) よって、被告に対し、本件保険契約に基づき、原告会社の七五六〇万円の、原告林は二〇〇〇万円の各保険金及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成九年一二月一一日から支払済みまで年六分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)及び(二)は認め、(三)は知らない。

(二) 請求原因(四)及び(五)は争う。

3  抗弁

(一) 本件火災は、原告会社の従業員甲野太郎(以下「甲野」という。)の放火によって発生したものであるが、甲野は、ほとんど営業時間中にサンパレスに顔を出すことのなかった原告会社の代表者徳田源藏(以下「徳田」という。)から任され、店舗の営業管理、売り上げや従業員の管理はもとより、資金繰りの一部まで手伝うなど実質的にサンパレスの経営及び運営全般を行っていた。

そして、甲野は、サンパレスにおける経営状況が極めて悪く、平成九年六月末には釣銭用の金銭もなくなり一時的に閉店を余儀なくされたことなどから、自分が何とかしなければならないと思い詰め、原告会社に保険金を取得させてサンパレスの再建を図ろうと考えて放火に及んだ。

(二) ところで、本件保険契約第二条一項一号は、「保険契約者、被保険者またはこれらの法定代理人(保険契約者または被保険者が法人であるときは、その理事、取締役または法人の業務を執行するその他の機関)の故意または重大な過失」によって生じた損害については、保険者は、保険金を支払わない旨定めている。

甲野は、右のとおりサンパレスの実質的な経営及び運営全般を任され、保険の目的を管理する地位にいた者であるから、右条項にいう「法人の業務を執行するその他の機関」に該当する。

したがって、本件火災は「法人の業務を執行するその他の機関」の故意又は重過失によって生じたものであるから、被告はそれによる損害について保険金を支払う義務はない。

(三) 商法六六五、六四一条によると、火災によって生じた損害のうち、被保険者の悪意又は重過失によって生じたものについては、保険者はこれを填補する責任がない旨定められている。そして、右規定の適用に当たっては、被保険者に代わって被保険利益を管理する者も被保険者に当たり、右の者の悪意又は重過失によって生じた損害については保険者は免責されるというべきである(いわゆる代表者責任の理論)。

甲野は、右のとおり、サンパレスの実質的な経営及び運営全般を任されていたものであり、被保険利益すなわち保険の目的である本件店舗内の設備・什器等一式、商品・製品等一式を管理していたものであることが明らかであるから、被告は、甲野の放火によって発生した本件火災による損害について保険金を支払う義務はない。

また仮に、右規定の解釈について、いわゆる自己責任主義の考え方を採るとしても、被保険者の使用人などが被保険者を利得せしめようとして保険事故を招致した場合には右規定が適用されて保険者は免責されるとされているところ、甲野は、右のとおり、被保険者である原告会社に保険金を取得させてサンパレスの再建を図ろうと考えて放火に及んだものであるから、被告は、本件火災による損害について保険金を支払う義務はない。

4  抗弁に対する認否及び原告らの主張

(一) 抗弁(一)は否認する。

甲野は、サンパレスのホールマネージャーすなわち顧客が遊戯するホールを中心として働く従業員の責任者として、徳田の指示の下、従業員の勤務時間の管理、両替機に入れる小銭の管理、顧客からの苦情の処理などに当たっていたに過ぎず、原告会社の単なる従業員であることに変わりはなかった。

徳田は、パチンコ店「藻岩会館」の総支配人をしていたため、同店にいることが多かったが、その閉店後はほとんど、それ以外にも時間の許す限り、サンパレスに赴き、甲野に営業上の指示を出し、パチンコ営業の中核をなす出玉率の管理をした。また、サンパレスに行けないときには、随時、電話で打出から報告を受け、同人に指示を与えた。そして、徳田は、平成九年五月末日をもって「藻岩会館」を辞めた後は、毎日サンパレスに出て店の管理に当たった。更に、徳田は、終始、経営者として資金繰りを行った。甲野が資金繰りを手伝ったことがあったとしても、あくまで徳田の指示又は了解に基づくものである。したがって、徳田がサンパレスの経営及び運営に当たっていたものであり、甲野にこれを任せていたことはない。

(二) 抗弁(二)は争う。

甲野は、右のとおり、サンパレスの従業員に過ぎないから、本件保険契約の第二条一項一号にいう「法人の業務を執行するその他の機関」には該当しない。また仮に、甲野が保険の目的を管理する地位にいた者であるとしても、「法人の業務を執行するその他の機関」については、その前に明記されている「理事、取締役」の例示に照らし、これらに準ずる業務執行機関に限られ、会社でいえば清算人、破産管財人等をいうものと解されるから、甲野がこれに該当しないことは明らかである。したがって、被告は、本件火災による損害について免責されない。

(三) 抗弁(三)は争う。

商法六四一条の解釈について、第三者が保険事故を招致した場合、その第三者が保険契約者又は被保険者と特別な関係があるとしても、そのこと自体から保険免責は生じないとする自己責任主義が通説・判例であり、原告主張の代表者責任の理論は採り得ない。したがって、甲野が保険の目的である本件店舗内の設備・什器等一式及び商品・製品等一式を管理していたとしても、被告が免責されることはない。

また、自己責任主義の考え方は、保険事故招致者の目的ないし動機が被保険者に利益を与えるというものであった場合であっても、保険者の免責を肯定するものではない。

本件火災は甲野の放火によって発生したものであるところ、仮に甲野が原告会社に保険金を取得させ、サンパレスの経営を再建させようと考えて放火に及んだとしても、これは、単なる従業員の行動としては異常であり、甲野のゆがんだ責任感ないし異常な生真面目さという同人の特異な性格傾向によって惹起されたものといわざるを得ない。したがって、本件放火は、原告会社にとって全くの予想外の偶然の事故である。原告会社が予測できない事故の被害者という意味においては、放火魔など全くの第三者から放火された場合と何ら異なる点はない。損害保険の制度趣旨に照らし、原告会社は保険によって救済されるべき被害者であり、被告が免責されることはあり得ない。

二  参加人の請求について

1  請求原因

(一) 前記一の1(原告らの請求についての請求原因)の(一)ないし(四)に記載のとおり。

(二) 参加人は、原告会社に対し、別紙2記載のとおり金銭を貸し付けた。

(三) 参加人は、平成九年六月一〇日、右時点における右貸金残金六一五〇万円の請求権を担保するために、原告会社から、右(一)の保険金請求権について質権の設定を受けた(以下「本件質権」という。)。

(四) 参加人は、平成九年八月五日、原告会社との間で次の合意をした。

(1) 原告会社の参加人に対する残債務が五九五〇万円であることを確認し、原告会社はこれを即時に支払うこと。

(2) 遅延損害金は年六分とすること。

(五) 参加人は、その後、被告から、本件火災により焼失した本件保険契約の保険証書の再発行を受けた。

(六) 原告会社は、被告に対し、平成九年八月七日送達の内容証明郵便をもって、(三)の本件質権設定の事実を通知した。

(七) 原告らは、前記一のとおり、自らに本件保険金請求権が帰属するとして、被告にその支払を求めている。

(八) よって、参加人は、被告に対し、本件質権に基づく取立権の行使として、本件保険金のうち、被担保債権額である五九五〇万円及びこれに対する約定の支払期限の翌日である平成九年八月六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告らに対し、本件保険金請求権のうち右の限度の支払を請求できる権利が参加人に帰属することの確認を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 原告ら

(1) 請求原因(二)、(三)は認める。但し、(三)の質権設定契約日は平成九年六月一〇日ではなく同年八月五日である。

(2) 請求原因(四)ないし(六)は知らない。

(二)被告

(1) 請求原因(一)については、前記一の2に記載のとおり。

(2) 請求原因(二)ないし(四)は知らないが、(五)は認める。

3  被告の抗弁

前記一の3の(一)ないし(三)に記載のとおり。

4  抗弁に対する認否及び参加人の主張

前記一の4の(一)ないし(三)に記載のとおり。

理由

第一  原告らの請求について

一  請求原因1の(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがなく、乙第二号証によると、本件火災により、本件店舗内の設備・什器等一式、商品・製品等一式が焼失したことが認められる。

二  抗弁について

1  被告は、本件火災による損害について、免責約款又は免責規定の適用により、保険金の支払義務がない旨主張するので、検討するに、甲第七ないし一〇号証、乙第二ないし八号証、一一号証及び原告会社代表者の尋問の結果に、弁論の全趣旨を総合すると、以下の各事実が認められる。

(一) サンパレスは、もともと原告林が風俗営業の許可を受けて始めたパチンコ店であり、建物については、同原告が経営する太陽観光株式会社が所有者の旗手啓二から賃借していた。

徳田は、サンパレスの総支配人をしていたが、平成三年ころ、原告林から頼まれてサンパレスの経営に参画し、そのころ設立した原告会社の名義をもってサンパレスの経営に当たった。原告会社の取締役には、徳田のほかに二名いたが、いずれも名目的なものにすぎなかった。

その後、原告林は、次第にサンパレスの経営に関与しなくなり、サンパレスは、実質的に徳田すなわち原告会社によって経営されるようになった。

徳田は、サンパレスの経営をするかたわら、他人の経営するパチンコ店「藻岩会館」の総支配人として勤務しており、同店が平成九年五月末に閉店するまでは、同店での仕事が忙しく、サンパレスの営業時間(午前九時三〇分から午後一〇時三〇分まで)中に同店に出ることがほとんどできない状況であった。

(二) 甲野は、かねてから面識のあった徳田から誘われ、平成二年ころからサンパレスのホールマネージャーとして勤務していた。甲野は、従業員ではあったが、数名の従業員の長であって、徳田から厚い信任を得ており、徳田が「藻岩会館」の仕事を優先していたことなどから、次第にサンパレスにおける営業の実際のほとんどを行うようになった。すなわち、甲野は、他の従業員と同様、ホール回り、カウンター係の仕事等に当たったほか、従業員の割り振りを含めた服務管理、換金・両替用の資金の管理、景品等の在庫管理、顧客の苦情処理、売上金の管理、光熱費等の支払などをした。

徳田は、サンパレスの経営者としてその資金繰り等をしていたが、それ以外には、「藻岩会館」の閉店後の深夜に、サンパレスに赴き、その日の売り上げデータを見て、パチンコ台の釘調整をするなどするのが日常であった。

甲野は、徳田の右釘調整には口を出すことはなかったが、店舗の改装やパチンコ台の入れ替え等に当たっては、自己の意見を徳田に具申し、また、サンパレスの経営が次第に悪化し、徳田の資金繰りが十分になされなくなったことなどから、自らが借金して他の従業員の給料や換金・両替資金の一部に充てるなどし、平成九年三月には本件保険契約の更新手続もした。徳田は、甲野の右のような行為を黙認するどころか、かえってサンパレスの資金繰りのための融資を受ける際に甲野に保証をしてもらったことがあった。

(三) サンパレスの経営は、極めて悪化していたため、徳田は、平成九年五月末に「藻岩会館」が閉店した後においても、サンパレスの債権者の対応に追われ、従前以上にサンパレスの経営及び運営に関与することはほとんどなかった。

甲野は、右のような状況下において、他の従業員や自らの働き場を確保したいという意識もあって、何とかサンパレスの経営を盛り返したいと考えるようになっていたところ、同年六月下旬ころ、徳田の指示により、サンパレスの借金を返済するために換金・両替用の資金をつかって休業を余儀なくされ、また、その後店舗の改装をしたものの、売り上げを伸ばすことができなかった。甲野は、債権者の取立てに追われている徳田に相談することもできず、もともと徳田からサンパレスにおける営業の実際のほとんどを任されているという責任感に強く支配されていたことなどから、右のような閉塞状況を打開しサンパレスの経営を再建するには放火して原告会社に本件保険金を取得させるほかないと短絡的に決意し、後記のとおり、本件放火に及んだ。

(四) 甲野は、本件火災当日の午後一一時二〇分ころ、他の従業員がすべて退社したのを確認したうえ、放火が泥棒の仕業であると疑わせるため、バール等を使って事務所内の金庫をこじ開け、書類をばらまくなどの工作をした後、一階のホールの中央付近等に灯油をまき、点火した新聞紙を投げて放火した。その後直ちにサンパレスを出て、自宅に帰った。

2  ところで、原告会社代表者の徳田の供述中には、「甲野は、あくまでサンパレスの従業員の長に過ぎず、同人に対し、サンパレスの経営及び運営を任せていたことはなく、これに関する事項については、代表者が具体的に甲野に指示をして処理させていた。」旨の部分がある。しかしながら、これは、甲野に対する刑事事件の捜査及び公判段階において作成された徳田の供述調書(甲第七号証、乙第八、一一号証)中の記載と異なるものであって、一貫性に欠けるうえ(なお、右供述調書について、徳田がことさらに虚偽を述べなければならなかった事情は見出し難い。)、その内容をみても、徳田と甲野の長年にわたる付き合いからくる信頼関係の存在や、徳田が「藻岩会館」の総支配人をしていたためにサンパレスの運営の実際をみることがほとんどできなかったことなどに照らし、不自然さを免れないというべきであるから、徳田の右供述部分はたやすく採用することができない。

3 右1に認定した事実を総合すると、甲野は、サンパレスの従業員ではあったものの、その経営者である徳田ないし原告会社から任され、サンパレスの営業の実際のほとんどをしており、その一環として本件店舗内にある設備・什器等一式及び商品・製品等一式を管理していたものであり、また、同人は、右のとおり、単なる従業員の立場を超えて経営者である徳田に近い地位にいたことから、サンパレスの経営再建のために原告会社に本件保険金を取得させようと企図して本件放火に及んだものと認めるのが相当である。

4  ところで、乙第一号証によると、本件保険契約においては、「保険契約者、被保険者またはこれらの法定代理人(保険契約者または被保険者が法人であるときは、その理事、取締役または法人の業務を執行するその他の機関)の故意もしくは重大な過失または法令違反」によって生じた損害については、保険者は保険金の支払を免れる旨(第二条一項一号)定められていることが認められる。

本件火災は、甲野の本件放火によるものであるところ、右認定事実に照らすと、甲野は、右免責条項にいう「法人の業務を執行するその他の機関」に当たるというべきである。すなわち、甲野は、サンパレスの従業員ではあったものの、原告会社の代表者から任され、サンパレスの営業の実際のほとんどを行い、保険の目的を管理するなどしていたものであるから、原告会社のためにその機関として業務を執行していたものというべきであり、本件放火も、サンパレスの経営再建のために原告会社に本件保険金を取得させようと企図してなされたものであって、原告会社のためになされたその機関の行為とみるのが相当である。

したがって、本件火災は、「法人の業務を執行する機関」である甲野の故意によるものであるから、右免責条項が適用され、被告は、それによる損害について保険金を支払う義務がない。

この点について、原告らは、「法人の業務を執行する機関」は文字どおり理事、取締役又はこれに代わり得る清算人、破産管財人等に限定される旨主張する。しかしながら、保険契約者、被保険者又はこれらの者の法定代理人による保険事故招致の場合について保険者の免責が合意された理由は、そのような場合に被保険者に保険請求権があるとすることは、偶然の出来事によって事を決しようとする保険契約の射倖的性質にかんがみて、当事者に要求される信義誠実の原則に反すると認められ、また、そのような保険事故の発生は国民経済的にも好ましからぬ結果を伴うものである場合が少なくないため、公益上の見地からも弊害を防止する必要があるからである。そうだとすると、法人の法定代理人を更に具体化したといえる「法人の業務を執行するその他の機関」の意義については、実質的にみて法人の機関又はこれに準ずる地位にある者としてその業務を執行していると認められる者をいうものと解するのが相当であり、必ずしも形式的に理事、取締役等の機関の地位にある者でなければならないとする理由はない。したがって、原告らの右主張は採用することができない。

5  次に、商法六六五条、六四一条によると、火災保険においては、保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害につき、保険者は免責されると規定されている。

この規定の解釈に関するいわゆる代表者責任の理論によると、事実上被保険者のために保険の目的を管理する立場にある者も「保険契約者又は被保険者」に含まれると解されているところ、前記のとおり、甲野は、原告会社のために、保険の目的である本件店舗内にあった設備・什器等一式、商品・製品等一式を管理していたものと認められ、したがって、本件火災は「保険契約者又は被保険者」である甲野の放火によって発生したものであり、それによる損害については右免責規定が適用されるから、被告は、保険金を支払う義務がない。

また、右規定の解釈に関するいわゆる自己責任主義の考え方によっても、甲野が原告会社のために保険の目的を管理していたものであることから直ちに「保険契約者又は被保険者」に該当しないとしても、諸般の事情を考慮し、保険金請求権を認めることが信義誠実の原則に反しないか否か、公益上の見地から保険事故の発生・増加による弊害を防止する必要があるか否かなどを検討して「保険契約者又は被保険者」に該当するか否かを判断するものと解されているところ、甲野は、前記のとおり、原告会社の代表者から任され、サンパレスの営業の実際のほとんどを行い、保険の目的を管理するなどしていたものであって、保険契約者又は被保険者に準ずる立場にあった者であり、しかも、サンパレスの経営再建のために原告会社に本件保険金を取得させようと企図して本件放火に及んだものであり、これは、保険契約者又は被保険者のための行動であったと認められる。このような事実関係の下では、被保険者である原告会社に保険金請求権を認めることは信義誠実の原則に反するのみならず、これを肯定することにより保険事故の発生・増加にもつながりかねないというべきであるから、甲野の放火による本件火災の発生は、まさに「保険契約者又は被保険者」による保険事故招致に当たるというべきである。

以上によると、甲野の放火によって発生した本件火災による損害については、商法六六五条、六四一条の免責規定が適用され、被告は、保険金を支払う義務がない。

この点について、原告らは、甲野の放火による本件火災の発生は、原告会社にとって全く予想外の偶然の事故であり、その意味においては全くの第三者による放火の場合と異なるところはないから、損害保険の制度趣旨に照らして、右免責規定は適用されないと解すべきである旨主張する。しかしながら、保険契約者又は被保険者にとって保険事故を予想できたか否かによって直ちに右免責規定を適用すべきか否かを決すべきであるとは解し難いのみならず、既に述べたところから明らかなとおり、甲野の放火による本件火災の発生と全くの第三者の放火による火災の発生とを同視することは到底できないから、原告らの右主張は採用することができない。

6  以上のとおり、本件火災による損害について、いずれにしても、被告は、免責され、保険金を支払う義務がない。抗弁は、理由がある。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。

第二  参加人の請求について

参加人の請求は、いずれも原告会社の被告に対する保険金請求権があることを前提としているものであるところ、前記のとおり、被告は、免責されて保険金を支払う義務がないから、参加人の請求も、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことに帰する。

第三  結論

よって、原告ら及び参加人の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官坂井満)

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